死ぬまでに、やめるから。

それまでは、OTAKUでいさせてくれないか。主に丸山隆平さんと関ジャニ∞について。

ジャニヲタ文芸部 第2回お題「カウントダウン」

もう、ジャニヲタ文芸部・お題発表の時期か、と思うと時間の流れの早さに驚愕せずにはいられない。ということで、第2回も、飽きもせずSSで参加させて頂きます。


それにしても、短歌や都々逸で表現できる方って凄いな、と毎回思います。短い言葉で綺麗に表現するって、相当難しいと思うんだよね。

では、以下より始めます。

◆◆◆

彼女の延命装置に警告の明かりが灯った。
ライブ開演、三十分前のことだった。

彼女は、とある不治の病に冒されていて、特別に開発された延命装置によってその命を繋いでいた。この装置が切れてしまえば、立っていることはおろか、息をすることも出来なくなってしまうーーそれなのに。
彼女はどうしても、そのアイドルのライブを見たいと言った。だから、病院を抜け出すのに手を貸して欲しい、と。
僕は彼女の友人だったので、誰よりも親しい友人だと思い込んでいたので、彼女の切実なる願いを叶えるべく、小さな延命装置に繋がれたままの彼女を抱え、病院をこっそり抜け出した。
ただ、誤算だったのは、その延命装置が、予想外に電池を食うということだった。予備のバッテリーさえ使い切ってしまい、もう充電出来るものは残っていない。
「病院に戻ろう」と説得を繰り返す僕に、彼女は頑なに首を横に振った。苦しそうに浅い呼吸を繰り返す彼女は、自作のうちわを固く握り締めたまま、メインステージを見据えている。
「戻らないと、君は死んでしまうんだよ」
「死んだって……構わない。今、このライブを見なければ、私は死ぬまで……ううん、死んでからも、後悔する」
「ライブなんていつだって行けるよ。生きてさえいれば」
僕の言葉を聞いて、彼女は眦を釣り上げた。
「生きてさえいればいつだって行ける、なんて。そんな保証、誰にも、ない。次のライブまで、私が生きられるかどうか、なんて、分からない。あなたにだって、彼らにだって……ここにいられる保証なんて、ない」
彼ら、の言葉と同時に、彼女の視線は僕が手にしていたうちわに向けられる。そこには、彼女が大好きだと公言していた青年が、満面の笑みをたたえていた。

「だから、お願い。ここに、いさせて」

警告ランプが点灯してから、バッテリーが三十分も保たないことは分かっていた。ライブが始まるまでにギリギリ保つかか保たないかーーそのくらいしか、彼女には時間が残されていない。
でも、今、救急車を呼んで貰えば、彼女が生きられる可能性はぐっと高くなる。彼女には恨まれるかもしれないが、そうすべきなのではないかと僕は思った。
でも、彼女の熱っぽい瞳が、僕を思い留まらせた。彼女にも、僕にも、そして彼らにも、今この時しかないのかもしれない。次、なんて生温かい慈悲は与えられないのかもしれない。僕は、彼女の生命維持装置を握りしめたまま、祈るように開演を待った。

それから、どのくらい経っただろう。
観客達が立ち上がり、手を叩きながら、呪文のような何かを呟いている。それから、ふ、と。辺りが真っ暗になり、歓声が上がった。僕が顔を上げると、目の前のスクリーンが、カウントダウンの数字を表示し始めた。
「始まるよ」
囁いた僕に、彼女の返事は無かった。
僕は手元の生命維持装置を見て、その灯りが、目の前のカウントダウンに合わせて点滅していることに気がついた。しかし、僕には、スクリーンと生命維持装置を交互に見つめながら、ただ祈ることしか出来なかった。

頼む。
どうか彼女に、一目だけでも彼らの姿を。

数字は減っていく。
早く、と急く僕の願いを無視するかのように。
規則正しく、マイペースに。

5・4・3・2・1……。

そして、激しい音の洪水に呑まれながら、彼女の生命維持装置の明かりが静かに消えた。
瞳を閉じたまま、人形のように眠りに落ちた彼女の身体を抱き寄せ、小さく揺さぶる。
「ねぇ、始まったよ。会いたかったんでしょう?  ほら、目を開けて。こっちに来るよ」
沈黙を保ったままの彼女に、僕は囁くように声を掛ける。しかし、彼女が瞳を開けることは無かった。僕はどうしていいか分からず、ただ泣きながら、彼女を強く抱きしめた。

やがて、上方から誰かがじっと見つめている気配を感じた。のろのろと顔を上げると、そこには彼女の大好きな青年が立っていた。テレビで見るよりも実物の方が、何倍もいい男だった。
僕はそんな彼に、涙と鼻水で濡れた汚い顔を晒しながら、彼女の腕を取り、その手に握りしめられたうちわを掲げた。

『元気下さい!』

そう書かれたうちわを、青年は真っ直ぐに指差した。それから、僕の腕の中で眠る彼女に向けて、何かを投げるそぶりをした。僕の手にしていたうちわより、何倍も輝く笑顔を浮かべて。「元気になぁれ」と、唇を形作った。

その後、彼女は会場にいたスタッフに呼んでもらった救急車で、病院に運ばれた。奇跡的に命だけは取り止めたが、彼女はあの日からずっと、目を覚ましてはいない。

僕は今日も、彼女のベッドの傍らで、彼らが歌う曲を聴きながら、彼女が目を覚ますのを待っている。

「次のライブには、お礼に行かなきゃね」

彼女の命を、ここに繋いでくれたお礼に。
そしてーー僕を救ってくれたお礼に。
次のライブを、指折り数えながら。
彼女と二人、彼らに会いに行ける日を、一人、カウントダウンしながら。

◆◆◆

ツッコミたいところは多々あると思いますが、あくまでフィクション……ファンタジーなので……どうかご容赦を!
今年も色々なことがあった中で、いつだって会いに行ける、次がある、なんて保証は誰にもなくて。だからこそ、会いに行けるそのチャンスを大事にしたいな、と思いました。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。