死ぬまでに、やめるから。

それまでは、OTAKUでいさせてくれないか。主に丸山隆平さんと関ジャニ∞について。

ジャニヲタ文芸部 第0回お題「担当」

ジャニヲタ文芸部なる面白そうな部活動があったので!
ドキドキしながら参加してみます。
 
 
今回のお題は「担当」とのことで、これをもとに短い文章を書いてみました。
以下、始めます。
 
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「助けて、欲しいんです」

 
そう言って私の前に現れた彼女は、まるで夕焼けを飲み込んでしまったみたいな色をしていた。
彼女の服装やカバンは勿論のこと、腰まで長く伸ばした髪も綺麗に整えられた丸い爪も、全てが鮮やかなオレンジに染められていた。挙句、その肌や瞳の色さえもオレンジに侵食されているものだから、彼女が抱える切実な悩みは一目で分かった。
 
「半年ほど前のことです。夜、部屋でテレビを見ていたら、どこからともなく、足の生えたバケツが現れて……そのバケツに、オレンジ色のペンキを頭からかけられてしまったんです。それ以来、身体中がオレンジ色に染まって、その色が取れなくなってしまいました。更に酷いことに、私が触れた物は全てオレンジ色になってしまうんです」
 
彼女はそう言うと、私の傍に置いてあった紙を指で触れた。するとその紙は、彼女の指先から波紋を描くようにオレンジ色に染められていく。その様子は、空が夕闇に染められていく瞬間に似ていた。
 
「色々なお医者さんに診てもらったんですけど、悪いところは見当たらない、って。精神疾患を疑われて、入院までしたけど、結局治りませんでした。その後、退院してからあなたの噂を耳にして……藁にも縋る思いでここまで来ました。怪現象のプロフェッショナルであるあなたなら、何とかしてくれるんじゃないか、って」
 
オレンジ色の紙で鶴を折り始めた彼女の足元からオレンジが滲み出し、暗闇に沈むリノリウムの床を染めていく。
この怪現象に遭遇するのは、今月三度目だ。
赤や黄色とその色は様々だったが、ある日突然、歩くバケツにペンキを掛けられ、身体中全てがその色に染め上げてしまう、という現象は共通している。
私はくるり、とボールペンを回しながら、青いため息をついた。
 
「その歩くバケツが現れた時、君は何のテレビ番組を見ていたのかな?」
「ドラマです。アイドルグループ……の……くんが出ている」
 
そのアイドルの名前を出した瞬間、彼女の頬は限りなく赤色に近いオレンジへと染まった。その声は努めて平静を保とうとしていたけれど、床を染めていく速度は、これまでの三倍くらい早くなっていた。
何とも分かりやすい。
彼女もまた、あいつに取り憑かれているのだ。
 
「妖怪タントウ」
 
「タン…トウ?」
「そう。アイドルに夢中になってしまった人間に取り憑いて、そのアイドルの色に染め上げてしまう何とも不思議な妖怪。普通は取り憑かれた本人だけが、その色に染まっておしまいなんだけど……どうやら君は、他人にもその色を伝染させたいタイプのようだね。まったくありがた迷惑な子だよ」
 
彼女は私の言葉に傷ついたのか、瞳からオレンジジュースのような涙を零した。オレンジ色の涙は舐めたら甘いんだろうか、なんてことを思いながら私は彼女の言葉を待つ。
 
「……私、どうすればいいんですか?  あなたにお祓いをしてもらえば治りますか?」
「そうだね。私でも祓うことは出来る。でも」
「でも?」
 
私はわざと間をもたせてから、答える。
 
「私がタントウを祓えば、君が後生大事に抱えている彼への気持ちはなくなってしまう。それでも君は、タントウを祓いたいと願うのかな?」
「それ、は……」
「もしそれが嫌なら、彼への気持ちがなくなるまで、一生その色を引き摺って生きていくしかない。君が彼の【担当】を名乗ったからこそ、タントウは君の側にいる。今、君の身に起きていることは、他の誰でもない、君の責任だ。それに、彼への想いがなくなることに比べれば、全身オレンジに塗れて生きていくことくらい、大したことじゃないでしょう? だってほら……私達が宿すのは、こんなにも鮮やかで綺麗な色なのだから
 
私はそこまで言ってから、部屋の明かりを点けた。すると、真っ暗だった部屋が、一瞬にして海のような風景に変わる。
彼女が私を見て、息を飲むのが分かった。
青いシャツに青いスカート、青い爪に青い唇。青いペンに青い紙。青い壁に青いリノリウムの床。吐く息は青く、流す涙さえも海の色になってしまう私もまた、妖怪タントウに取り憑かれた人間の一人だったのだ。
 
「それでも……どうしても祓って欲しくなったら、いつでもおいでなさい。まあ、祓ってしまったら、今度は青く染まってしまうかもしれないけれど」
 
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【あとがき】
ぬ〜べ〜化物語を見ながら、妖怪とか怪異とかSF(すこし・ふしぎ)な話を書いてみたいと思ったところに、「担当」というお題を織り交ぜて、こねくり回した結果こんな感じの物が出来ました。妖怪タントウって何だよ!と自分自身でツッコミを入れざるを得ない形になったこと、お詫び申し上げます。
 
担当を名乗る自分を自分で見つめながら、時々、妖怪みたいだな、と思うことがあります。担当でいることは、自分が好んでかけた呪いで、その呪いを解くのはいつだって可能なのだけれど、私は、その呪いにかかった状態を仄暗い喜びとしていて、呪いを解こうとする事柄に反発を感じ、呪いによって受ける痛みすらも楽しんでしまっているのだから、どうしようもないな、と思うのです。
 
ここまで読んで下さって、ありがとうございました。そして、ジャニヲタ文芸部に皆さんがどんな作品が投稿されるのか、今から楽しみです。